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千賀に話しかけられた客達は恐縮しながらも質問に答えて,お勧めの物を商品を指差しながら説明した。
「どれもこれもいいわねぇ。決められないから全部いただこうかしら。でも今日買うと他の方が買う分がなくなるから次の機会にね。
また入江様の為に買いに来る事があるからその時にでも。
彼はもう奇兵隊に返さなくていいかしら?」
千賀はこのまま屯所に出向いて高杉に交渉しようと言い出した。それには女将も慌てて千賀に縋りつき,必死な形相で声を荒げた。
「お待ちくださいっ!入江様は本当に私と夫婦になると約束したのです!どうかっ!どうか私から彼を盗らないでくださいっ!」 https://www.easycorp.com.hk/en/accounting
「無礼な。離れなさい。」
侍女は女将を押し退けて千賀を庇うように間に入った。
「どうしてかしら?全く話しが違うわ?私は彼本人が身を固める気はないと仰るからそれを信じてるのだけど。」
「先程そちらの侍女の方にもお話致しました!彼は毎日会いに来てくれる程私を想ってくれています。ですが,木戸様の奥様と来られた日以来会いに来てくれません……。
きっと奥様が私と入江様の仲を快く思わなくて彼を来られないように……。奥様は夫が在りながら入江様にご執心のご様子で,入江様に色目を使って私から奪おうとされてるのです……。」
悲劇の主人公を演じる女将を千賀は思わず冷めた目で見てしまった。
「松子ちゃんと入江様が仲がよろしいのは木戸様から聞いてます。木戸様も承知の上ですよ?二人にやましい事がないから一緒に居るのを許しておられるのです。
それに松子ちゃんが色目を使うだなんて……ねぇ?
だったら彼に仕えて欲しいと言った私は彼を誘惑してると捉えられるのかしら?」
千賀はねぇそうなの?と女将と客達に笑顔で問いかけた。客達は青ざめた顔でそんな事一切ないと全力で否定した。
「でも,一つ言えるのはどちらかが嘘を吐いていると言う事ね。嘘なんてバレるもの。いずれ明らかになるでしょう。
もし,嘘を吐いてるのが入江様なら貴女きっぱり諦めた方がいいわよ?だって恋仲が居るのに一人を貫くなんて嘘を言う男がお店を継いで守っていけるかしら?
そうね,貴女には私がいい相手を紹介するわ。入江様が嘘を吐いていてもいなくても,優秀な彼をこちらも手放すつもりはないのよ。」
女将は顔面蒼白でその場に立ち尽くした。
千賀は騒がしてごめんなさいと客達に軽く頭を下げてから,侍女に包まれた菓子を持たせて店を出た。
客達は深くお辞儀をして千賀を見送り,気まずそうに女将を横目で見た。
女将は全身から力が抜けて膝から崩れてその場にへたり込んだ。『どうなってるの……。何で千賀様が関わってくるの……。
千賀様,あの女の事松子ちゃんって呼んだ?って事はあの女千賀様に告げ口を……。』
女将は怒りに震えて唇を噛み締めた。
侍女を従えて歩きながら,千賀はふぅと小さく息をついた。
「本当に聞いた通りの女将ね。私も嫉妬の対象になれたかしら?」
「お言葉ですが,千賀様は対象外かと。」
千賀はあんなに煽ったのに?と不満げな顔をした。侍女は冷静に一つ失態を冒してますよと教えてあげた。
「親しげに松子ちゃんと呼んでは駄目ではないですか。きっと松子様が千賀様に泣きついたとでも思ってますよ。」
「それでいいじゃない。松子ちゃんには私が付いてると彼女は理解したんですもの。
それでこのまま大人しく身を引けば見逃してあげるけど。」
侍女が引くような女には見えませんでしたと無表情で言うもんだから千賀は思わず吹き出した。
「千賀様品のない笑い方はお止めください。」
千賀は笑わせたのはそっちじゃない,咎めないでよとふてぶてしく言った。
「して欲しい事があったら言ってください。私も言葉にしてもらわないと分からないので……。」
三津の背中に手を回して胸に顔を埋めていた桂は“して欲しい事”と言われ昨日の入江の件を思い出してしまった。
「あっいやっ私は別に……。」 https://www.easycorp.com.hk/en/accounting
急に身を剝してあたふたしだした桂を三津は不思議そうに見つめた。
「もし嫌でなければ……たまにこうして横で寝てもらえると嬉しい……。朝起きた時一番最初に三津の顔を見たい。」
「分かりました。なるべくお疲れの時は寄り添えるようにします。」
本当に元には戻れないのか?と思うぐらい三津が自然で居てくれるから桂はつい甘えたくなる。
「三津……。」
「何ですか?」
とても甘えたいがここで我を通せば三津をただ都合良く利用してるだけな気がして,それだけは避けたいからと思い何でもないと首を横に振った。
「小五郎さん,またお互いの信頼を積み重ねるには隠し事せず本音で話さなアカンと思うんでやり直す為にもちゃんと思う事は言ってくれませんか?」
そう言われては敵わない。気まずくて目は見られないから少し視線を落として白状した。
「く……口づけを一つ……して欲しい。」
どんな反応をするか恐る恐る視線を三津の顔へと移していくと,三津は顔を赤く染めていた。
「私からするんですか?」
出来れば……と消え入りそうな声でお願いすると三津は口を一文字に結んで黙り込んだ後,小さく分かりましたと答えた。
「あの……目を閉じてもらっても?」
「あっ……あぁ分かった……。」
布団の上でお互い正座で向かい合い,桂は言われた通り目を閉じた。視界を閉した今は音だけが頼りで,三津がにじり寄る音がして膝が少し触れ合った。
それから三津の右手が自分の左肩に置かれ,左手は頬に添えられた。鼻先が触れ柔らかい物が唇に当たった。
触れた唇は余韻を残しながらもすぐに離れた。名残惜しくて目を開けると目の前にあった顔が恥じらいながらそっぽを向いた。
「ありがとう,身支度してくるよ。」
桂は歯止めがかからなくなる前に部屋を出た。口づけをしてもらえたと言う事はまだ自惚れてもいいのだろうか。
桂はにやける顔を両手でパンッと叩いてから表情を引き締めた。
今日もやらなければならない事が沢山ある。
朝餉の準備はセツと三津の二人でやった。白石邸に滞在する三人にはなるべく朝はゆっくりしてもらいたいと三津が申し願った。
それと味噌汁も自分に作らせてくれと頼んだ。身支度を整えた隊士達がぞろぞろと広間に集まりだし,そこに居るのがセツと三津だけと分かると表情が緩んだ。
「あの姉ちゃんも別嬪やけど気性が荒いけぇ嫁ちゃんの愛嬌が和んでいいわ。」
「それ幾松さんの前では言ったら駄目ですよ?」
三津はそう言ってもらえるのは有り難いけど幾松が知れば後が怖いからと苦笑した。
「嫁ちゃん俺ご飯少なめ味噌汁多めにして……。」
あからさまに二日酔い感を出した山縣が頭痛いと背後から三津にのしかかった。
「体が資本ならしっかり食べて下さい。ほら,ちゃんといつものとこに座って。」
右肩に顔を埋めて無防備になった山縣の後頭部を三津はバシバシ叩いた。
「嫁ちゃん食わせてくれやぁ……そしたら食べるけぇ……。」
「食べさせたらいいそ?そしたら私がその口に突っ込んじゃるけぇ私の膝に座り?」
山縣の肩にぽんと手を乗せて三津から離れろと指先に力を込めた。
山縣が恐る恐る振り返ると満面の笑みを浮かべた文が居た。
「文さん!ゆっくりして来てくれたら良かったのに。」
「せっかくこっち来とるんやけぇ一日中ここにおってみんなと楽しく過ごしたいやん?」
その腹黒い笑みを目の当たりにした入江は顔を真っ青にして赤禰の陰に隠れた。
「フサも出来る限り姉上と共に過ごしたいので朝早く起きるのは苦じゃありません。山縣さん,私の姉上なので離れてください。」
フサは厚かましいと山縣を引き剥がしにかかった。
「では……いただきます。」
三津はどうぞどうぞと徳利を手に順番にお酌をして回る。
「三津さんもどう?」
入江に勧められるも今日はお酌係に徹するとやんわり断った。
三人を家に上げた事を怒られるのは覚悟しているが,酒を呑んだと知れたら後が怖い。
「呑んだら桂さんに怒られるんです?」 https://www.easycorp.com.hk/en/accounting
それを察したように久坂がふっと笑みを漏らした。
「もう俺らがいる時点で説教確定だろ。」
吉田は他人事の様に笑った。桂の居ぬ間に家で三津に酌をされ,手作りの肴を食べて上機嫌だ。
「明日藩邸で一緒に怒られてあげるよ。」
「入江さんと吉田さんは説教しても利かないって小五郎さん言ってましたから多分二人はお咎め無しですよ。」
だから怒られるのは私だけだからと入江の申し出を笑い飛ばした。
「あぁ……桂さんのお仕置き激しいのに申し訳ない……。」
「は!?何言ってるんですか!入江さん!」
声を荒げて入江の腕をバシバシ叩くが入江はそれすらも楽しんでいた。
「本当に桂さんの恩人なんです?出逢いってその怪我したとこを匿ったってアレで間違いないんです?」
「そうですよ?その日はたまたま寝付きが悪くて水飲みに台所に居たんですよ。そしたら物音して外出たら小五郎さんが居たんです。
怪我してたからとりあえず中に連れ込んで。」
それを聞いて久坂が思い切り吹き出した。
「よくもそんな得体の知れない男を。連れ込むなんて大胆ですね。
そうですか連れ込んだんですか三津さんが。」
「だって家の脇で死んでても嫌やないですか!」
三津は至って真剣に言うのだけれど,三人は甘味屋の脇で桂が死んでるのを思い浮かべて腹を抱えて大笑いした。「あっはははは!苦しい……死にそ……。
だっ大丈夫。桂さんしぶといから死なない。それに相当危険な状態になったら刀抜くから。」
吉田は笑い過ぎて出てきた涙を拭った後にまた腹を抱えて悶えた。
「しぶといって……。そんなに笑う?」
「三津さんはまだ桂さんが強いのが信じられないみたいですね。明日三人で斬りかかってみましょうかね。」
「そんな物騒な事を何笑顔で言うてはるんですか久坂さん。」
「ちゃんと木刀にしときますから。」
「そう言う問題?」
本気で斬りかかるつもりなのか三人は楽しそうに作戦を練り始めた。
『悪ガキ三人。』
きゃっきゃと笑い合う三人は文字通り大童で三津はその様子を目を細めて眺めた。
ひとしきり呑んで食べて騒いだ三人は全く酔った様子もなく帰って行った。
『三人が何考えてるか全然分からんかったけど楽しかったな。』
後片付けをしながら一人で笑みを浮かべた。三人の仲の良さが覗えて羨ましさと同時に,いつまでたっても悪ガキなのが微笑ましかった。
今日は桂の言い付け通り先に寝ようと湯浴みを済ませて布団に潜り込もうとした時だった。
『あ!帰って来た!』
玄関へ出迎えに行こうかと思ったがそのまま布団に潜り込んで寝たふりをした。
三津が寝てると思っていた桂もただいまとは声をかけず静かに中へ入って来た。
すると桂は真っ先に三津の傍に腰をおろして頭を撫でながらただいまと声を掛けた。
その優しい声と手つきに三津は頬を緩めた。
「お帰りなさい。」
その愛しい人の顔が見たくて堪らず返事をした。
「何だ起きてたのか。夕餉は楽しく食べれたかい?」
「ふふ。悪ガキ達が良からぬ作戦を立ててました。」
「作戦?」
「明日になれば分かります。何かお夜食食べますか?」
上半身を起こした三津に桂は口角を上げていいやと首を振る。
「約束を破った悪い子をいただくから。」
「だと思いました。」
「ん?今日は随分と余裕だね?」
そう言われたら手加減する訳にはいかない。
それを察知したのか三津のが急に狼狽えだした。
「余裕?そんなモノは無いですよ!ただ小五郎さんが吉田さん達が来るのも私が追い返せないのも分かってるから怒られる覚悟はあっただけで!」
「もう遅いよね。」
売られた喧嘩は買ってきた。
かった恨みも数知れず。
刀を握るからには日々命を懸けてはいるけれど…
「くっ…,あははははっ!!」
総司は腹を抱えて笑った。
苦しい苦しいと涙を拭う。
「何が可笑しい!!」 https://www.easycorp.com.hk/en/accounting
「だって土方さんが簡単に死ぬ訳ないもの。
なのに今生の別れだなんて冗談もいいとこですよ!しかもあんな真顔でっ!」
「あれぐらい言わなきゃ態度を改めねぇんだよアイツは!」
我ながら大人げなく,子供じみた言い方をしてしまったと思っていたところだ。
そこを抉らないでいただきたい。
だがここでめげてはいられない。目的を果たす事だけを考えて土方は大股で歩いた。
「御免下さい。」
土方を追い越して総司がウキウキしながら暖簾をくぐった。
『コイツ用件忘れちゃいないだろな?
甘味屋ってだけでこんなに浮かれるったぁお気楽な奴だな。』
「あら,沖田さんに土方さん。いらっしゃいませ。」
お久しぶりねと形式的な挨拶をそこそこに,総司を押しのけて土方が本題を口にする。
「今日は女将に教えていただきたい事があるんです。」
「何でっしゃろ?」
「三津の過去について。」
トキの顔色が変わった。周囲の様子を窺ってから小声で二人に囁く。
「ここではよう話しません…。中に入って少し待ってもらってもよろしいでしょうか。」
二人は店の奥に通されて,トキが戻るまで居間に腰を据えた。
どんな話を聞かされるのか,考えると妙に緊張して来た。
出されたお茶の味を感じなかった。
「お待たせしました。」
トキは功助と共に,浮かない表情で二人の前に座した。
「三津の過去について…でしたね。」
「はい,突然押し掛けておいて申し訳ない。
三津が極端に血を嫌がる理由を知りたい。
何があってそうなったか教えていただけますか?」
功助とトキは沈痛な面持ちで首を縦に振った。
「今年の春です…。
三津は新平と言う恋仲と桜を見に行った帰りに…不逞浪士に斬られました。」
「えっ…。」
今思い出しても胸が苦しくなると二人は目を伏せた。
そんな二人を見開かれた総司の双眼が映す。
思わず声を漏らした口も開いたまま。
「新平君は即死やったと聞いてます…。
三津を…三津だけを逃がそうとして立ちはだかって…一緒に逃げたら良かったのに…。」発見された時の二人は折り重なって血溜まりの中にいた。
三津が新平を庇うように覆い被さって。
その背中は右肩から切り裂かれていて直視出来るものじゃなかったとトキは涙ぐんだ。
新平の息は無かったけど,三津は辛うじて息はあった。
何日も生死の境をさ迷って,何とか一命を取り留めた。
一命を取り留めたのに,三津には自分だけ生き残った事への罪悪感と新平を失った苦しみしか残らなかった。
「目を覚ましてからの三津は,新平君の死を受け入れられなくて彼の遺品を抱き締めてひたすら泣いて謝り続けました…。」
精神的にボロボロな三津に追い打ちをかける事件がまた一つ。
「新平君にはふくと言う仲の良い妹がおりました。
同い年だった三津とも仲が良かった…。」
察しのいい土方と総司は,そこまで聞けば大体の予想はつく。
「その…おふくさんとやらも,もう…。」
功助とトキが頷いたのを見て,その後に続けようとした言葉を飲み込んだ。
「ふくちゃんは新平君の後を追って自分で喉を切りました。
その事が余計に三津を絶望に追いやった…。」
両親を失って町に来て,恋人を失いその次は友達。
「新平君とふくちゃんは火事で両親を亡くしてまして,二人で支え合ってきたから無理もありません…。」
ふくにとって唯一の家族だったのに,三津だけが助かった。
それが三津の心に重くのしかかった。
自分が死ねば良かった。そしたらふくは新平の後を追うような事をせずに済んだのに。
「全部私のせいやって,三津は自分を責めて死のうとした事も…。
きっと今も心のどこかで自分がふくちゃんを殺したと思ってるかもしれません。」
斎藤、桜司郎と続くような形で屯所の門を潜る。隊務を終えた隊士達がぞろぞろと風呂へ向かう姿が奥に見えた。
斎藤は一歩後ろを歩く桜司郎へ目を向ける。何処か気まずそうな、気恥ずかしそうな表情が門前の篝火によって照らされていた。
──可憐だ。嫋やかな見目をしているというのに、その内には燃え盛るような闘志と意志が秘められている。……いっそのこと、この手で手折ってしまいたくなる。
「……鈴、」 子宮肌腺症|一定要切除子宮?能自然懷孕嗎?醫生拆解子宮腺肌症常見徵狀、治療方法 | healthyD.com
手を伸ばそうとするが、桜司郎の視線が自分ではないところへ向けられていることに気付く。そちらを見遣れば、稽古着の沖田が向かって来ていた。
「あれ、珍しい組み合わせですね。出掛けておられたのですか?」
やはりこの男か、とムスッとした斎藤はその耳元に顔を近付ける。少しくらい意地悪をしても罰は当たらないだろう。
「……気になるか?逢引だ」
そう囁けば沖田はみるみる眉間に皺を寄せた。
「な……ッ」
口角を上げた斎藤は振り返ると、自身なりの柔和な表情で桜司郎を見やる。
「鈴木、俺は少し沖田さんと話しがある。先に屯所へ入っていると良い」
そのように言えば桜司郎は頷き、軽く頭を下げて駆けていった。背を見送りながら、斎藤は沖田を道場へ誘う。
静まり返った道場に灯りをともせば、そわそわとしていた沖田が口を開いた。
「斎藤さん、逢引というのは──」
「ああ、それは嘘だ」
あっさりと嘘だと認めれば、沖田は拍子抜けしたような、安心したような何とも言えない表情になる。
斎藤は竹刀を二振り持ち、一つを沖田へ投げた。構えろと言えば沖田は直ぐに対応する。
二人は平正眼に構えた。
「……だが、俺は鈴木へ己の想いを伝えたよ。好いていると……な!」
仕掛けたのは斎藤である。床を大きく踏み込み、胴を狙うがそれはすんなりと受け流された。
立て続けに攻撃を仕掛ける。鋭く打ち合う音が道場へ響き渡った。ギシギシと音を立てて鍔迫り合いになる。
「おれは、今日ほどあんたを……沖田さんを羨ましいと思ったことは無い。鈴木は……あんたを想っていることだろう」
「そ、そのような事は!」
沖田は竹刀を押し返そうとするが、力が入り切らずに受け流す形となった。手の感覚が少しずつ、少しずつ、まるで毒に侵されているように消えていくのを感じる。
長くは持たないと判断した沖田は咳が出ぬように息を止めた。そして大きく後ろへ下がると、下段に構えて斎藤を誘う。
「何故無いと言える!」
苛立ちを覚えた斎藤は再度攻勢に出た。がら空きの胴を狙うように向かう。
──今!
その隙を見た沖田は力いっぱい右から左上へと袈裟懸けに振るった。パン、と竹が弾けて砕けるような音と共に斎藤の手元からは竹刀が吹っ飛ぶ。
あまりに重い攻撃に、斎藤の手はビリビリと痺れた。は、と乾いた笑みが漏れる。
その時、沖田は膝を着いて激しく咳き込んだ。息を止めていたことも相俟って、呼吸が激しく乱れる。肩で大きく息をしながら、斎藤を見上げた。
「……流石だな、沖田さ──」
斎藤は沖田の掌にほんのりと血のような物が付いているのを目敏く見付ける。だがそれは直ぐに握り潰された。
それは何なのかと気になったが、さしずめ見ぬふりをしてほしいのだろうと察した斎藤は自然に視線を逸らす。