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するのです!? 今の光秀殿は、領地がないも同然なのですよ!?」
「そのようなことは知ら…」
「無責任なことをせになられますな!」
濃姫は思わず畳の上をバンッと叩いた。
「こやつ、誰に向かって──」
らず信長は濃姫を睨み付けたが、目の前の妻の眼光の方が、自身のそれよりも何倍もかった。
年を重ね、かにも凄味を増した濃姫の怒りの面差しは、會計審計服務
魔王と恐れられる信長ですらも、その勢いをがれてしまうようだった。
母性溢れる女人を好み、常にその愛と優しさにだけっていた彼は、
こうなった時の妻の激しさが、どうにも苦手なのである。
「…じゃからというて、武士が一度 口にしたことは変えられぬ」
信長が投げ捨てるように言うと、濃姫は軽く溜め息をにございますか? どうして左様な酷なことを仰せになられたのです?」
と、冷静に訊ねた。
信長は如何にも言いづらそうな表情を浮かべる。
しかし黙っていてもが明かないと思ったのか、ややあって大きく肩で息をすると
「あの者が…、有能で、家臣としては非の打ち所のない男だからじゃ」
信長はくような声量で言った。
濃姫は暫し考えてから、はて?と小首をげた。
「畏れながらお濃には、せの意味がよう分かりませぬが」
「じゃから、あの者の真面目で誠実な、忠義一辺倒なところが気に入らぬのだ」
「…それの何がいけないのです? 上様の周りには、左様な臣下が大勢いらっしゃるではありませぬか」
「あの男にはそれを求めてはおらぬ!」
信長は声を張ると、悩ましげな表情を浮かべつつ、で顔を拭くような仕草をした。
「儂に仕え始めたばかりの頃の光秀は、あのような男ではなかった。妙案がある時は、居並ぶ重臣たちの話しを押し退けてでも発言し、
儂に臆することもなく、己の意見をつらつらと進言することの出来る、面白味のある男であった。──じゃが今は…」
信長は口を真一文字に結び、小さく首を横に振った。
「今の光秀はな、ただ儂に従順なだけの、からくりになってしもうたのだ。儂に向かって、“ り ” の案を言うて参った折の度胸も快活さも、
今のあの者からは感じられぬ。……儂が側に置いておきたかったのは、かつての光秀であり、今の光秀ではない」
「…上様」
「されど、例えからくりに成り果てても、あの者が才知溢れる、有能な男であることに変わりはない。そうであろう?」
濃姫は黙って頷いた。
「儂も、朝廷のしきたりにかった時分には、光秀の助言に何度となく助けられた。
元は尾張の田舎者に過ぎぬ儂が、公家やらの前で恥をかかずに済んでおるのも、あの者のおかげなのであろう」
信長はとして語ると
「故に、儂が光秀に寄せる信頼は今も変わっておらぬ。あの者は間違いなく儂の片腕じゃ」
な瞳でそう言い切った。
夫の言葉に、濃姫の胸の中は、の思いでいっぱいになる。
「この国の平定を成し遂げた後は、今いる重臣らと共に海を渡り、世界へ繰り出すつもりだ。
日の本こそがこの世の全てと思い込んでおるあやつらに、まことの世を見せてやりたいのじゃ」
「それは、とても素敵なお考えでございますね」
「…されど、光秀を今の状態のままで連れて行くことは出来ぬ。異国の地で、例え儂が短慮に及んだとしても、
めることも今のあの者には出来ぬであろう。──此度のことは、それ故の荒療治じゃ」
「荒療治?」
「無理難題を突き付けられ、追い詰められれば、人は自ずと本来の顔を見せてくるというもの。
怒り狂い、儂に暴言を吐くもし。逆に命令を守り、死に物狂いで戦勝を掴みに行くのであれば、それもまた面白い」
あやつの人間味が見たいのだ、信長はってそう言った。