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ささやきよりもちいさく

ささやきよりもちいさく、ほとんどきこえなかった。耳をすましていると、おれの掌からかれの掌が滑り落ちた。

 

「俊冬っ」

「たま先生っ」

 

 全員が声をかぎりに叫んだ。

 

 それこそ、https://www.easycorp.com.hk/en/accounting 箱館山や箱館湾まで響き渡ったかもしれない。

 

「俊冬っ、くそったれ」

 

 副長は、この期におよんでまだかれを「くそったれ」呼ばわりしている。

 

 みんなが叫び、すがりついた。

 

 これでもかというほど涙がでてくる。

 

「俊冬っ」

 

 もう何十回呼んだだろう。

 

 動かなくなった、かれだった遺体にすがりつき、泣きじゃくっている。

 

「死にやがって。死にやがって、この野郎っ。許すものか。殺してやりたいよ」

 

 副長のツッコミどころ満載の悲痛な叫びも、いまはよりいっそう涙を誘う。「本当に、本当にここにきてよかっ……」 副長は、俊冬の頭部を抱きしめている。そしておれは、の体にしがみついている。

 

 そのとき、肩のあたりをだれかに叩かれた。

 

 俊冬の体にしがみつくとか触れたいからとか、場所を譲れという合図なのかと思った。

 

 て思っていると、また叩かれた。

 

……、まだ、まだ、まだ、死んで……

 

 くぐもった声が、耳に飛び込んで来た。

 

「ま、まだ死んでいません……

 

 えっ?

 

 いま、たしか副長の胸辺りから声がきこえたよな?つまり、副長が抱きしめている胸の辺りから……

 

 そちらをみた瞬間、肩を叩こうとしている血まみれの掌が目に入った。その手の先は、なんと俊冬の胴へとつづいている。

 

 はやい話が、おれの肩は俊冬の掌に叩かれていたのである。

 

「ぎええええええっ!」

「ひいいいいいいっ!」

 

 そうと理解した瞬間、悲鳴を上げてしまった。腰を抜かすほど驚きつつ、尻を地面につけたまま後ろ手で下がってしまった。

 

 副長も同様である。

 

 ゆえに、俊冬の上半身を支える者がいなくなり、かれは地面に落下していって……

 

 その瞬間、俊春が腕を伸ばして俊冬を受け止めた。

 

「まだ死んでいません」

「ひえっ」

「うわっ」

「うおっ」

 

 死んだはずの俊冬の口から、「死んでいません」宣言が飛びだした。

 

 その瞬間、だれもが悲鳴を上げた。

 

 ドキドキが止まらない。

 

 副長をみてみた。

 

 オカルトやホラー系がNGな副長は、おれよりも悲惨な状態になっている。ブルブルと震え、イケメンも俊冬より真っ白になってしまっている。

 

 お馬さんたちが、うしろで鼻を鳴らしている。すぐちかくで、相棒もまた呆れたように『ふふふんっ』と鼻を鳴らしている。

 

「本番のまえに、ちょっと練習をしてみただけです」

 

 死んだはずの当人は、しれっと告白した。

 

「なななな、なんだっていうんだ?」

「怖すぎだろうっ!」

「し、心の臓が……

「驚きすぎて、どきどきしておる」

「愛するお馬さんたちよ、大丈夫か?」

「怖かったよー」

「オウッゴッド!」

 

 副長とおれにつづき、伊庭、中島、安富、田村、野村が俊冬のおちゃめなイタズラ、もとい悪質きわまりない嫌がらせのことについて、率直に感想を述べた。

 

 田村など、わんわん泣いている。

 

 副長も、泣き叫びたいであろう。

 

 副長は、めっちゃビビっているにちがいない。それこそ、ピーだけでなくプーももらしたかもしれない。

 

「主計っ、この野郎っ!そんなわけがあるかっ」

 

 副長はソッコーで否定したが、どうだろうか。

 

 真実は、神と副長のみぞ知るってやつだ。

 

 それにしても、まるで昭和時代のコント展開である。

 

 ふざけすぎだろう?

 

 だけど、俊冬らしい。

 

 なにせかれは、「わが道爆走王」だから。

 

「俊冬、きみを見送ってくれようという人たちをショック死させる気?それとも、文字通り

を賭けたギャグなわけ?それだったら、ハジメ君の唯一の取り柄を完璧に凌駕したね」

 

 まだドキドキがおさまらない中、俊春がクスクス笑いながらいった。

 

 想像の斜め上をいきまくる俊冬のおふざけに、さすがのも笑うしかないのであろう。

 

 ってか、いまのが笑いをとるためだったのなら、大成功だ。

 

 かなり口惜しい。

 

「きみ、そういうキャラだっけ?」

 

 俊春は、俊冬を抱きしめつつクスクス笑いつづけている。

 

 おれもびびりまくった自分が恥ずかしくなり、っていうかそれをごまかすために笑った。

 

 副長も同様に、照れ笑いをしている。

 

 またしても笑いが伝染する。

 

「そう、その調子。笑ってくれなきゃってやつだ。湿っぽいのはきらいだ。どうせなら、笑いながら別れたい」

 

 俊冬の咳き込みながらの言葉に、笑い声がやんだ。

 

「俊冬、わかっている。みんな、笑っているよ。ほら、ぼくも笑っているだろう?」

 

 俊春はそういったが、もうだれも笑ってはいない。俊春だけが、かなり無理をして笑顔で俊冬を抱きしめている。

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